施設看護人という立場から
■取材ご協力
安積疏水土地改良区 副理事長
渡邉武夫さん
安積疏水にはその維持管理をするための「施設看護人」が100名ほどいる。看護人の仕事は、事務所のコンピューターだけでは対処できない支線部分や、疏水の末端部分の管理を行い、地域の各農家へ潤沢に水が配水されるよう調整することである。また年に3回ほど、受益者である農家の方々に働きかけ、皆で疏水路の掃除を行っている。
渡邉武夫さんは、主に新安積疏水の須賀川市方面の施設看護を担っていた。現在は副理事長として、看護人全体の統括を理事長と協力して行う。
「最近は台風の他にもゲリラ豪雨が多いですから、漏水など異常がないか点検が大変です」と渡邉さん。
もともと叔父さんがこの仕事を行っていたこともあり、その仕事内容に興味があった。縁あって看護人として25年程携わった。
「東日本大震災の時は漏水箇所が多く出てしまい、本当に大変でした。通水する4月26日までに修復するのが我々の仕事ですから」
今回の震災では、全体への甚大な影響こそ出なかったものの、細かな被害を調査する看護人にとっては苦労の連続だった。トンネル箇所が多いため、見ているだけでは損傷が分からない。そのため、少しずつ試験通水をしながら漏水箇所を確認していった。農家の方々が農作業を始める前に修復を終わらせなければならず、時間的な制約もあった。
結果として困難を乗り越え、各幹線の平常通水までこぎつけた。農業災害として国からの復興予算が下りたこともあり、震災後の3年間で全ての修復を終えた。ただ、疏水は毎日の利用で徐々に老朽化していく。これからは地域の農業を守るためにも、恒常的な対策が為されていくよう訴えかけていくつもりだ。
「今後のテーマは、安積疏水をより有効に利用すること、そして看護人の後継者を育てていくこと」と渡邉さん。
安積疏水系の3箇所の水力発電所、新安積疏水の小水力発電所については先述したとおりだが、渡邉さんは新安積疏水内で、他にも小水力発電ができないものかと期待を寄せている。
新安積疏水の地形は、落差など発電への条件に適う場所が多い。原発に代わるエネルギーが模索されている中、たとえ小規模であっても有用な手立てとなるかもしれない。水位が上がってオーバーフローしたり、障害物が流れ着いた時の対応など、予測される事態に対しても今後対策を煮詰めていく。
「土地改良区にいる人間の立場としては、財源の確保もとても大切なことです。そのためにも今ある設備をもっと有効活用し、ゆくゆくは農家の方々へ還元できればと思います」
また、後継者育成に関しては「リーダー的な立場で疏水を守ってくれる人が、出てきてくれれば」と語る。
100人いる看護人達をまとめ、地元の農家の方々とも協力をしていくには、強いリーダーシップと信頼感が必要だ。渡邉さんは現代社会の「人間関係の希薄さ」を挙げ、このような社会だからこそ、後継者の出現を待ち望んでいる。
「そのためにも、まずは安積疏水の役割を多くの人に知ってもらい、その歴史に少しでも触れてもらえればと思います」
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