会津三十三観音 札所1番~9番 喜多方市
※本稿の歴史的記述について
本稿の記述は、現地案内看板の内容を最優先とし、参考文献として歴史春秋社が発行する以下の書籍を参照しています。
<参考文献>
歴史春秋社編(2018).『会津三十三観音巡り』.歴史春秋社
藤田定興(2011).『神と仏の信仰』.歴史春秋社,【歴春ふくしま文庫41】
地元郷土史家の方、史談会の方で、お気づきの点がありましたら、下部コメントフォームよりご教示いただけると助かります。
なお、本稿では御詠歌に解釈を加えていますが、私は学者ではありません。訪れる一人一人が、自分なりの解釈で楽しむのが良いだろうと思います。あくまでも私の主観であることをお断りしておきます。また、御詠歌はなるべく歌額記載のまま記述するよう心がけています(分かりづらい部分は漢字にしています)。ガイドブックや書籍と異なる部分もありますが、ご了承ください。
1.大木観音
一面の田んぼと遠く山が連なる風景を見ながら、喜多方市塩川町の大木集落に入る。集落内の狭い道を進むと、曲がり角にお堂が見えてくる。
山門には立派な仁王像が安置され、訪れる人を迎えてくれる。
案内板では開基の詳細は不明とされているが、歴史春秋社の『会津三十三観音巡り』を参照すると、創設者は地元の長者・常安、開基は徳一大師。
伊達政宗の会津侵攻で消失したものの、上杉景勝によって再建されたと伝えられる。
ご本尊は十一面観世音菩薩。
御詠歌
万代の願い大木の観世音 あの世と共に救け給えや
大木は掛詞だろうか。会津の御詠歌は地名が効果的に使われている。
喜多方市塩川町大田木字塚田3281-1
2.松野観音
喜多方市街地から西へ向かった慶徳地区にある。近くには磐越西線が通る。
狭い集落をパンフレットのとおりに進んだところ、良縁寺というお寺に辿り着いた。こちらには地蔵菩薩がある。観音堂は狭い集落の中をさらに西へ進んだ場所だ。
観音堂には特徴的な杉の木が植えられている。敷地内にはブランコや鉄棒が設置され、子ども達の遊び場でもあるようだ。
ご本尊は元禄7年(1694年)の火災で一度焼失してしまった。奈良時代に行基が開いた千光寺のお堂の一つで、千光寺の仏像(千手観世音菩薩)が安置されていたようだ。
火災焼失後、観音堂の荒廃を危惧した星某が、新たに像をつくり安置した。幸い灰が残っていたようで、新たな像の中に灰を納めたと言われている。
御詠歌
朝日さす夕日かゞやく御山寺 松野のさとに晴るるうす雲
多くの資料に「大山寺」と書かれているが、お堂に奉納されている歌額にあわせ、「御山寺」とした。当時の情景が分かる美しい歌だ。
喜多方市慶徳町松舞家字松野730(良縁寺住所。観音堂は集落を西へ)
3.綾金観音
米どころ会津を感じさせる一面の田園風景の中、家々が密集して建つエリアがある。豊川町の綾金集落だ。
観音堂は、集落の東に位置し、会津豊川駅方面から訪れると分かりやすい。
道を挟んで綾金公会堂に隣接する。
鎌倉時代の元弘元年(1331年)に葦名盛宗が創建し、十一面観音像を安置したと言われている。創建当時は20を超える僧房があり、地域は興隆を極めていたようだ。
その後、伊達政宗の侵攻により、天正年間(1573年~)に消失。寛文年間(1661年~)に僧・石伝によって再建された。
観音堂の隣には薬師堂(子育薬師)もある。
御詠歌
つゆの身は夢まぼろしの世の中に 身を綾金といで祈るらん
人生の儚さを受け入れ、一心に祈る強い想いが感じられる。
喜多方市豊川町米室綾金155
4.高吉観音
綾金観音堂から北東に進んだ高吉集落にある。近くには喜多方桐桜高校があり、市街地も近い。住宅街の中で、高い木々に囲まれた観音堂は別世界のようだ。
文亀元年(1501年)、僧・盛尊がこの地に古くからある寺を再興させたとき、観音堂も立てられたと言われている。
元和7年(1621年)の火災で一度は消失するが、村人達が新たに十一面観音像をつくり、再興した。
御詠歌
かきわけてまいりて拝む高吉の 佛のひかり道ぞかがやく
当時の巡礼の大変さが、句から想像できる。
喜多方市豊川町米室字高吉4415
5.熱塩観音(示現寺観音)
地域が変わり、旧熱塩加納村へ。
国道121号を熱塩温泉に向かって走り、県道334号熱塩温泉追分線に入る。温泉街を抜け、最奥にあるのが示現寺だ。
示現寺は空海によって平安時代初期に建立された後(当時は真言宗で慈眼寺)、永和元年(1375年)に越後の僧・源翁が曹洞宗に改め、現在の寺名で再開山した。
観音堂は天明8年(1788年)の建立と言われる。
宋から伝えられた寺院建築様式「禅宗様式」が採用され、装飾的な造作が特徴だ。堂柱のちまき形(柱の上下のすぼまった部分)や、台輪(構造を安定させる平たい横木)に特徴を確認できる。
建築の特徴を確かめようとお堂を見上げると、牡丹や菊、鷲、鶯などの彫刻装飾に気づく。これだけ華やかな印象を受けるお堂は珍しい。
ご本尊は千手観音菩薩。観音様の体内に観音小像が納められている。
御詠歌
のちの世をたすけたまへや観世音 慈悲熱塩にまゐる身なれば
慈悲熱塩の部分は掛詞になっているのだろうか。来世の安穏を祈願する様子が分かる。
喜多方市熱塩加納町熱塩字熱塩甲795
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