三春人形三春の郷土文化と出逢う

伝統を受け継ぎ、新たなる可能性を拓く

「三春人形」の魅力

● 取材:2010年6月
● 取材ご協力:三春町歴史民俗資料館 平田禎文さん デコ屋敷本家大黒屋 二十一代 橋本彰一さん
● 文 、写真:木村裕輔
(掲載の情報は取材時のものです。情報が古い場合や、お気づきの点がございましたらご連絡ください。メールはこちら)

上写真:流麗なフォルムと独特の表情が魅力の三春人形。今回掲載の写真は、高柴デコ屋敷、大黒屋さんにお願いし、撮影した。

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三春人形は江戸時代より続く郷土民芸品だ。東北地方では珍しい和紙を使った張り子人形で、その愛らしい表情や動きのある造形が特長。今回は実際に制作にあたっている職人さんを訪ね、その魅力や可能性に迫った。なお、歴史上の流れを鑑み、三春駒、三春ダルマについても言及する。

三春を代表する郷土玩具として、多くの人々に愛されてきた三春人形。お正月のダルマや干支など縁起物を始め、歌舞伎や舞踏などをモチーフにした、豊かな表情と躍動感を持った人形が制作されている。

江戸から300年の歴史

この歴史は古く、江戸時代に三春藩領であった高柴村(現在の郡山市西田町高柴)にて制作が開始されていたと言われている。
仙台の堤土人形の技法を基に、この地独特の作法を生み出した。当時、東北地方の人形の多くは土人形であったが、三春人形は和紙を用いた張り子の人形だ。貼り合わせによる複雑な造形など、紙だからこその利点を生かし、独創的な人形を次々と生み出していった。手間こそかかるものの、その分表情や動きに味が出て、美しくもユーモラスで愛らしさのある作品が仕上がる。

三春ダルマと三春駒

これまでに制作に使用されてきた木型は数千点程あるとされる。当然数千点の作品を制作しているわけではなく、その時代の需要に応じた制作が行われてきた。歴史を辿ると、明治時代以降には、ダルマや縁起物ばかりを制作していた時期もあったようだ。
これには文明開化の中で人型の人形に見られた時代風俗が受け入れられにくくなったことや、洋紙の流通によって和紙の入手が難しくなったこと、戦争による経済状況の悪化など、様々な要因が考えられる。ダルマや縁起物など安定した需要のある商品は、制作者を支えるものでもあったのだ。
また、三春の地に古くから伝わる三春駒も、三春人形と並び大切に制作され続けてきたものだ。坂上田村麻呂にまつわる伝承が残されており、古くは馬の生育を願うものとして、現代では子授け、子の健康を願う郷土玩具として親しまれている。

人形への芸術的価値

やがて厳しい環境からも脱却し、三春人形は高い芸術的価値を認められるようになった。職人から職人へと代々受け継がれ、発展しながらここまで来た。木型の何点かは県の重要文化財となり、高柴デコ屋敷の「デコ屋敷資料館」にて保存されている。
現在、人形制作が行われているのは4軒のみ。数自体は減っているようだが、若い職人さんも多く、伝統が継承されていることが感じられる。今回は「大黒(だいこく)屋」を訪れ、制作への想いをお聞きした。

大黒屋
大黒屋の熟練職人の一人。制作はすべて手作業で行われる。
写真は天狗を作っているところ。この工程は窓の外から見学可能だ。

三春駒

三春駒

三春駒は現在デコ屋敷がある高柴村の発祥。「子育木馬(こそだてきんま)」と呼ばれ、1838年頃には流通していたと考えられている。
坂上田村麻呂が大滝根(おおたきね)山の大多鬼丸と戦った際の伝承により、この地で作られるようになったと言われている。
この三春駒という名前だが、「駒」とは馬のこと。かつて三春藩領内は、馬の産地であり、江戸時代には藩が馬産を推奨し、三春城下にて馬市が立つほどであった。馬産農家は馬の生育を願い、木馬や絵馬を馬頭観音などに奉納した。三春駒はそのような時代背景で作られ続け、やがて人間の子への願いに変化していったのだ。
なお、現在は黒駒の他に白駒も存在する。こちらは老後のお守りとして作られている。


 

大黒屋デコ屋敷 大黒屋

郡山市西田町高柴字舘野163
TEL 024-981-1636 FAX 024-981-1637
ホームページはこちら

物産館やカフェなど、店舗や工房がデコ屋敷内に点在する。絵付け体験は「本家大黒屋工房」へ。団体の場合は事前に予約が必要。
「三春駒コース」 1200円 20分~
「お面コース」   1200円 20分~
「十二支コース」 1000円 30分~
「豆ダルマコース」 800円 15分~
なお、制限時間は設けられていない。

 

伝統―それは新鮮なもの

大黒屋は高柴村に土人形の技法が伝えられた時から制作を続けている、歴史ある家系の一つだ。現在は21代目の橋本彰一さんを中心に、10人程の職人達が制作にあたっている。
この家の特色は、若い職人が多いことだ。取材した日も、若手の職人達が真剣な目で制作と向き合っていた。
「伝統を守るには若手と熟練者とのバランスが大切だと思います」
そう語る橋本さんも、30代の若き職人だ。幼い頃から先代である父の技術を間近に見ながら育ち、27歳の時に道を継いだ。以降、伝統の中に新しい風を吹き込んでいる。
現在、実際に制作している作品は250種類程。昔から作られ続けてきた作品をしっかりと受け継いでいく一方で、新しい作品を生み出す努力も惜しまない。若手が多い分、新鮮なアイデアも多く生まれるのだ。
「歴史ある作品も、最初から完成された形だったわけではなく、発展を繰り返す中で今の形になりました。
その発展の流れに私達が加わることが、伝統を守ることにつながると思うのです」
スタンダードなものをしっかりと残し、それを糧に時代に合った作品も試行錯誤の中で生み出していく。
たとえば、身近な動物であるはずの猫が干支に入っていないことに注目し、「うっかりネコ」という作品を生み出した。十二支の物語に猫を加え、きちんと意味付けも為されている。愛らしい姿が支持され、今では大黒屋の人気商品の一つだ。
「張り子というと、どうしてもぼてっとした形のものが多いですが、もう少しシャープなものも作れないかと考えています。極論を言えば、張り子でガンダムのようなものがあってもいいのです」
新しい作品を考えるのが好きだと言う言葉どおり、新作へ懸ける情熱は大きい。そこから生まれるのは、民芸品という枠にはおさまらない、新たな可能性を持った作品だ。
「伝統産業というものは、新鮮な側面を持っています。様々な作品を通し、それを伝えていけたらと思っています」
職人として、自分なりの伝統の守り方を確立することで、それが作品にも表れる。作品を手に取る私達の側も、きっと新たな魅力に気付かされることだろう。

制作は全て手作り。体験も可能

民芸品の制作は、徐々に機械にシフトしていく方向にあるそうだが、大黒屋は手作りが何よりの特長だ。
原材料も極力昔のままにこだわり、一つの作品に2週間程度をかける。それゆえ量産ができないので、販売はデコ屋敷やお正月の三春だるま市など、限られた場所だけになってしまう。その分、県の物産展への出展など、広く魅力を訴えかける機会を積極的に作っている。
「デコ屋敷に足を運んでいただき、興味を持ってくれる方が増えればと思います。お店に来るたびに新鮮に感じてもらえるよう、作品を作ってまいります」
お店では、うっかりネコから三春駒まで、様々な作品に出逢える。
なお、三春駒、お面、十二支、豆ダルマに関しては絵付け体験も行っており、個人客であれば随時受け付け可能だ。
伝統は新鮮なもの―民芸品の新しい風を体感しに、デコ屋敷へ足を運んでみよう。

取材、文:木村裕輔

三春人形
若手の職人さん達が、一つ一つ丁寧に絵付けをしていた。店の一角に作業場があり、そこで黙々と制作に打ち込む姿からは、職人としての貫禄が感じられた。

うっかりネコ
大黒屋創作の、うっかりネコ(中央)と豆ダルマ(左右)。
豆ダルマは色によってそれぞれの効果を発揮する。

三春ダルマ

三春ダルマ

三春では毎年1月の第3日曜日にだるま市が開催されている。新年最初の市で縁起物を買い求める風習が元となり、現代ではイベントも行われる華やかな行事となっている。昔は毎年一回りずつサイズの大きなダルマを買い足していき、8個揃うと古いダルマを交換するという習わしもあったそうだ。

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